2019 グランプリ・モントリール大会の81kg級決勝.VALOIS-FORTIER Antoine選手(CAN)は,ロンドンオリンピックの銅メダリストで,2014,2015年の世界選手のメダリストである.母国開催の大会であるため,期待も高かった.永瀬選手は,全日本選抜体重別選手権大会などを観る限り,コンディションを徐々に取り戻してきている.当時のパフォーマンスまではを考えると,今回はどこまで戻せてきているかという状況である.決勝戦も実力者であるため,簡単ではなかったはずだ.しかしながら,蓋を開けてみれば,最後は完璧な内股で一本勝ち.完全復活の狼煙をあげたのではないだろうか.今回は,この試合の内股を読み解きたい.
永瀬選手とVALOIS-FORTIER Antoine選手は共に右組で,相四つの組手になる.引き手(両者の左手)で相手の釣り手(両者の右手)を先に握り,コントロールすることが勝率を高める.サッカーでいえば支配率のようなものだ.一般の方は,「何で組まないのだろう?」とつまらなく思ってしまうかもしれないが,ここが組手争いを生む理由である.互いにどこを握ると強いかなどがわかると,試合の見え方が変わり,面白くなると思う.さて,ここまでは前情報.試合をみてみたい.
試合開始早々,VALOIS-FORTIER Antoine選手がイケイケで,積極的に攻めてくる.この点は,地元声援(期待)もあるため,予想通り.組手もVALOIS-FORTIER Antoine選手がよい状況だが,永瀬選手も技を仕掛けながら,しのぐ.映像時間の1分44秒あたりから,互いに釣り手を相手にコントロールさせないように,また互いに自身は引き手で相手の釣り手をコントロールしようと,組手争いが激しくなる.激しい組手争いが続くが,映像時間の4分あたりから,両者が引き手で相手の釣り手を握って,絞り合う(下方向に抑えること.柔道経験者の中では絞る・しぼるという).ここからが,最後の内股を決める重要な場面.この組手になって,すぐに(映像の4分8-9秒)永瀬選手が内股のフェイントを入れる.VALOIS-FORTIER Antoine選手はこれに全く反応しなかった(防御姿勢にならなかった).ここが勝負を決めたところである.相手が反応していれば,永瀬選手はその後に内股(投げにいくための)は選択しなかったと思う.しかしながら,VALOIS-FORTIER Antoine選手は組手で絞っているから大丈夫だ (投げられないだろう)という感覚が防御の反応すらさせなかった.永瀬選手は,これを捉えて思い切りの良い内股を施す.これが完璧に決まり,一本.厳しい組手争いの中で,相手の反応を感じとり,その一瞬を逃さなかった.素晴らしい内股だった.技が決まるには理由がある.そこがみえてくると,ハイパフォーマンスの試合は面白い.